学会発表Publication

学会発表

「安心感の輪」子育てプログラムのファシリテーターによる、研究発表や実践報告について、研修講師や主催者に報告があったものを紹介します。

【論文】

〇2021年

著者:Megumi Kitagawa, Sayaka Iwamoto, Tomo Umemura, Shimpei Kudo, Miyuki Kazui, Hiromi Matsuura, Judi Mesman
論文題目:Attachment-based intervention improves Japanese parent-child relationship quality: A pilot study
雑誌名:Current Psychology
DOI:https://doi.org/10.1007/s12144-020-01297-9
概要:日本におけるアタッチメントに基づく親子関係支援の効果を検証するために、1群介入前後フォローアップ時比較デザインによる試験的な検討を行った。1歳から6歳までの子どもをもつ母親26人が、少人数グループで毎週の頻度で行われた「安心感の輪」子育てプログラム(COSP)、および、個別ビデオ振り返りセッションに参加した。評価は各参加者に対して、COSP前、COSP後、第1期ビデオ振り返りセッション後、介入終了6ヵ月後の4回実施した。育児ストレス(子ども領域)は、COSP後に有意に軽減した。子どものアタッチメントは、介入終了6ヵ月後に、安定型への分類が有意に増えた。母親のアタッチメント表象および育児ストレス(親領域)は変化しなかった。今後はより大きなサンプルでランダム化比較試験を行うことが必要である。(報告者:北川)

著者:Nobuyo Kubo, Megumi Kitagawa, Sayaka Iwamoto, Toshifumi Kishimoto. 
論文題目:Effects of an attachment-based parent intervention on mothers of children with autism spectrum disorder: preliminary findings from a non-randomized controlled trial. 
雑誌名:Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health 15, 37.
DOI:https://doi.org/10.1186/s13034-021-00389-z
概要:ASD児親子を対象とした「安心感の輪」子育てプログラムの非ランダム化比較デザインによる効果研究。4歳から12歳までのASD児の母親で、COSP受講者(介入群)と非受講者(統制群)のCOSP前、COSP終了半年後の評価結果を比較検証した。結果、COSP終了半年後の介入群の母親の育児効力感と精神症状の改善、母親評定による子の行動改善を認めた。(報告者:久保)


〇2020年

著者:久保信代・北川恵・岩本沙耶佳
論文題目:アタッチメントに着目した自閉スペクトラム症児と養育者に対する親子関係支援 -分離不安を呈していた8歳男児と母親の親子関係の変化-
雑誌名:日本サイコセラピー・薬物療法学会雑誌、20 (1), 37-46.
概要:登校しぶりを示す自閉スペクトラム症(ASD)児とその母親に対して「安心感の輪子育てプログラム」を実施した際の経過を報告した。介入初期、心理教育によって母親は子のアタッチメント欲求について理解したが、応答の実践は困難だった。子のアタッチメント欲求時に喚起される自身の感情を内省し、ASDを抱えるわが子の養育の苦労と自身の被養育体験の傷つきに由来する防衛について自覚を得て、子への適切な応答が可能になっていった。介入1年後,子の登校しぶりが解消した。効果に影響を与えた要因として、ASD特性をふまえたアタッチメント心理教育とASD児の養育者ならではの感情の調整が重要であった。(報告者:久保)


【学会発表】

○ 日本発達心理学会 第34回大会(立命館大学)

日時: 2022年3月3日(金) 9:30~11:30
ラウンドテーブル3AM1-I-RT06:

「安心感の輪」子育てプログラムの実践と課題 ​
-幅広い現場で様々な対象者への効果的な活用に向けて-

企画・司会: 北川恵(甲南大学文学部)
企画・話題提供: 久保信代(関西福祉科学大学)
企画・話題提供: 岩本沙耶佳(甲南大学心理臨床カウンセリングルーム)
話題提供: 安藤智子(筑波大学人間系)
話題提供: 宮口智恵(認定NPO法人チャイルド・リソース・センター)
話題提供: 松波朝子(豊中市こども相談課)
話題提供: 岡野典子(中野区児童相談所)
話題提供: 久保樹里(花園大学)
話題提供: 河邉眞千子(愛知県医療療育総合センター)

概要の報告:
本ラウンドテーブルでは、様々な現場での「安心感の輪」子育てプログラムの取り組みについて実践者らから話題提供し、「安心感の輪」子育てプログラムを効果的に導入・活用するための工夫や課題について意見交換を行った。
 安藤先生は、本プログラムの特徴を説明し、実践の際の「安心感の輪」を用いた説明の具体例や、参加者の気持ちを推測して寄り添うことが難しいと感じた経験を挙げ、ファシリテーター自身の内省の重要性について話題提供した。
 岩本先生は、地域の親子に対する大学での実践における問題と対応について、また親子のアタッチメント理解のための託児における分離再開場面の観察情報の有用性やファシリテーター自身のシャークミュージック理解の重要性を話題提供した。
宮口先生は、認定NPO法人チャイルド・リソース・センターにおける社会的養護にある子どもの養育者に対する実践について報告し、委託元である行政や施設との協働の中で行う実践の可能性と課題について話題提供した。
 松波先生は、大阪府豊中市における実践について報告し、他の相談支援と連動しながら公的な子育て支援センターが本プログラムを実施することで現場に生まれる相乗効果や、行政機関に生じやすい課題とその工夫について話題提供した。
岡野先生は、児童相談所における実践を報告し、心理や福祉領域の担当者が対象の養育者と共に学ぶスタイルでプログラムを実施した試みについて話題提供した。プログラム実施における養育者の変化とともに外的な支援リソースが乏しい養育者を支える「大きな手」の担い手を増やす相乗効果について言及した。
久保樹里先生は、子どもの“荒れ”が発生した児童養護施設の立て直しのために本プログラムを導入した実践について報告し、本プログラムの概念を施設養育の基盤として組織的に実践を進めてきた成果、および6年間の取り組みにより見えてきた課題について話題提供した。
河邉先生は、2箇所の県立こども病院における本プログラム実践の経験を報告し、多職種連携の基盤となる視点として本プログラムが果たす役割について振り返りつつ、医療現場に本プログラムを導入することの課題について話題提供した。
久保は、自閉症スペクトラム(ASD)児の養育者への実践の効果検証の結果について報告し、ASD児養育者への本プログラム実践の意義、効果を高めるための工夫、ASD支援としての本プログラム導入の展望について話題提供した。
その後、北川先生の進行によってフロアの参加者も加わり、活発な意見交換が行われた。幅広い現場、幅広い対象にアタッチメントの視点を活用した実践を確実に届けていくための工夫、効果的な実践のための留意点について、全体で討論した。(報告者:久保信代)


〇日本子ども虐待防止学会 第26回学術集会 いしかわ金沢大会

日時:2020年11月29日(日)10:40~12:10
海外招聘プログラム:「アタッチメント理論をベースにした親子への介入の実際」
Anna Huber, Ph.D. (Center for Emotional Health, Macquarie University, Australia)
北川恵(甲南大学)
遠藤利彦(東京大学)
概要の報告:
オーストラリアでCOSの実践、COSPの実践やトレーニング提供、効果研究に長く取り組んできた心理学者Anna Huber先生は、“Ain’t Misbehaving”という演目で、子どもの行動上の問題をアタッチメントの枠組みで捉えることの有効性について講演した。永続的な変化は、行動を管理するテクニックを学ぶことではなく、子どもが親と安心感のある関係をもてることで得られる。そのために「安心感の輪」に基づく介入が役立つことを、ビデオ事例を紹介しながら述べた。
北川は、「日本における「安心感の輪」子育てプログラムの成果と課題」という演目で、アメリカで開発された「安心感の輪」子育てプログラムが、日本でも適応可能であり有効であることと同時に、子育ての責任を一人で抱えがちな日本の母親を支えることの大切さについて述べた。
遠藤先生は、「「解決不可能なパラドクス」としての虐待とCOSPの可能性」という演目で、虐待を受けている子どもが、恐怖によってアタッチメントが活性化されているのに、安全な避難所を得ることができないというパラドクスにより、発達への長きにわたる傷つきを受けることについて講演した。「安心感の輪」を子どもに満たす必要性について、乳児院でそれを実現する可能性についても、研究データを示しながら述べた。(報告者:北川)


〇 World Association for Infant Mental Health (WAIMH) 2018, Rome, Italy

日時:2018年5月31日
ポスター発表:Effectiveness of the Circle of Security Parenting program for mothers of children with Autism Spectrum Disorders: Case studies with 12 dyads
発表者:Nobuyo Kubo, Megumi Kitagawa, Sayaka Iwamoto
発表の概要:ASD圏の診断を持つ幼児期から学童期までの子どもと養育者12組への「安心感の輪」子育てプログラムの有効性を、介入前後、およびフォローアップ時の比較デザインによって検証した。結果を、COSP前、COSP終了後、終了6ヵ月後の3回評価した。
 養育者の育児効力感はCOSP終了後に改善し、介入後6ヶ月においても効果を維持した。子どもの行動と情緒の問題はCOSP終了6ヶ月後に有意に改善した。これらの結果は、ASD児と養育者を対象としたCOSPは、ASD児のわかり難いアタッチメント行動の理解や診断告知後の葛藤のための支援を提供することで、育児効力感を向上させ、ASD児の行動問題を減少させる効果があることを示している。今後はより大きなサンプルで、比較群を設けて効果検証を行う必要がある。(報告者:久保)


○ 日本子ども虐待防止学会 第21回学術集会にいがた大会

日時: 2015年11月21日(土) 14:00~15:40
応募シンポジウム37:
「社会的養護におけるアタッチメント支援の意義と展望:「安心感の輪」子育てプログラム(COS-P)の実践」
企画・司会:北川恵(甲南大学文学部)
話題提供:久保樹里(大阪市こども相談センター)
話題提供:河合克子・宮口智恵(NPO法人チャイルド・リソース・センター)
指定討論:森田展彰(筑波大学医学医療系)

概要の報告:
 「安心感の輪」子育てプログラム(COS-P)を、とりわけ関係性に深刻な傷つきを抱えた子どもと修復的に関わる社会的養護提供者に提供した先駆的な取り組みについての話題提供を行い、その意義と展望について検討するためにシンポジウムを企画した。
 久保先生は、アタッチメント形成に深刻な問題を抱えている児童養護施設の子どもたちには専門的ケアが必要であることを述べたうえで、その担い手であるケアワーカーにプログラムを提供した実践を報告した。プログラム受講体験の現場での持続的影響を検討するために、ふりかえりを行った結果についても報告した。
 河合先生・宮口先生は、児童相談所の委託を受けて被虐待児とその親に家族再統合プログラムの提供を行っているチャイルド・リソース・センター(CRC)の取り組みを紹介したうえで、施設職員が自らと子どもとの間で育む健全なアタッチメントの重要性を理解し、日常の養育に反映させることが必要と考えて、乳児院職員にプログラムを提供した実践を報告し、その意義を考察した。
 日本の児童福祉の現場でアタッチメントの視点に基づく実践を取り入れていくことの意義と課題について、森田先生が指定討論を行い、全体で討議した。(報告者:北川)


○ 日本発達心理学会 第27回大会(北海道大学)

日時: 2016年4月29日(金・祝) 9:30~11:30
自主シンポジウムSS1-1:
『アタッチメント理論に基づく子育て支援「安心感の輪」子育てプログラムを用いた実践を通して』
企画・司会:榊原久直(神戸松蔭女子学院大学)
      酒井佐枝子(大阪大学大学院)
話題提供 :久保信代(関西福祉科学大学)
話題提供 :酒井佐枝子(大阪大学大学院)
話題提供 :榊原久直(神戸松蔭女子学院大学)
話題提供 :竹田伸子(大阪彩都心理センター)
話題提供 :河邉 眞千子(あいち小児保健医療総合センター)
指定討論 :北川恵(甲南大学)

概要の報告:
 「安心感の輪」子育てプログラム(COS-P)を、自閉症スペクトラム児を抱える養育者、胎児期の子どもを抱える養育者、自身が精神疾患を抱える養育者という、それぞれに関係性の困難さを抱えていたり、関係性の大きな転機にあったりする養育者らを対象に実施した取り組みについての話題提供を行い、その意義と展望について検討するためにシンポジウムを企画した。
 久保先生は、自閉症スペクトラム(ASD)児とその養育者へのアタッチメント理論に基づいた関係性支援とともに、養育者への心理療法的支援の意義についてCOS-Pでの実践を通して明らかとなった点について報告をした。
 酒井先生は、ASD児の養育者が抱えるASD特性と質的に類似した表現型(BAP:Broad Autism Phenotype)に注目し、プログラムを提供する際の具体的工夫(視覚提示や概念の明確化など)について報告をした。
 榊原先生は、アタッチメント関係を支える養育者の心理機能の1つであるメンタライゼーション(Mentalization)に着目し、ASD児というラベルの影響や、ASD児との日々の関係性の中でこうした機能が低下する様子や、COS-Pを通したその回復プロセスを報告した。
 竹田先生は、0歳児の虐待死リスクの高さへの問題意識から、まだ子どもとの関係性を具体的に想像することが困難である妊娠期を含めた、妊娠期からの切れ目のない支援を目指して、予防的な関係性支援としてCOS-Pを実践することの意義について報告を行った。
 河邉先生は、医療機関での心療科的問題を持つ子どもとその養育者への支援としてCOS-Pを導入することによる家族の変化を報告した。加えて、多職種連携の基盤となる視点としてCOS-Pが果たす役割についての実践を振り返った。
 様々な困難さを抱える子どもや養育者を支える子育て支援の中で、アタッチメントの視点に基づく実践を取り入れていくことの意義と課題について、北川先生が指定討論を行い、全体で討議した。(報告者:榊原・酒井)

参加者から
 4月末の札幌としては30年ぶりの雪になった発達心理学会で、COS-Pの実践についてのシンポジウムに参加しました。既に長く臨床実践をされている先生方が、お子さんとの関係性構築に難しさをもつ養育者に対してCOS-Pを実践されたお話で、それぞれのご発表から、養育者の認知の変容、子どもの行動の変化などの実践の手応えを伺いました。特に、実践の中で、それぞれの養育者の「苦手と得意」をアセスメントし、そこに向き合うことができるように配慮しながらファシリテートすることの重要性を感じました。自分の実践を振り返る貴重な機会となりました。体験をご発表くださった先生方、指定討論の北川先生に感謝いたします。ありがとうございました。